アルテミス計画で本格化する月探査に向け求められる月面への物資輸送手段。JAXA 宇宙科学研究所がSLIMで目指したユニークなアイデアの成否はいかに……

アルテミス計画で本格化する月探査。アポロ計画以来となる人類の月面探査は2026年に先送りされたものの今後、月面への物資輸送が頻繁になることが予想されることから、いかに効率よく、確実に物資を輸送する手段の開発が求められています。

NASA(アメリカ航空宇宙局)もCommercial Lunar Payload Servicesという形で月への物資輸送手段の開発を進めています。

その一つの回答としてJAXA(宇宙航空研究開発機構)宇宙科学研究所がチャレンジしたのが小型月着陸実証機SLIM (Smart Lander for Investigating Moon)による月面着陸です。H2Aロケット47号機で2023年9月7日に種子島宇宙センター(鹿児島県)から打ち上げられたSLIMは2024年1月20日午前0時20分、月面への着陸を果たしました。

月面への着陸を果たしたのは世界では旧ソ連、米国、中国、インドに続く5カ国目。

1月20日午前2時10分から記者会見した宇宙科学研究所は着陸は成功したと説明したものの、國中均所長は「ギリギリ合格の60点」と厳しく評価しました。

その理由は本体(全長2.4 m、幅 2.7 m、厚さ 1.7 mと軽自動車サイズ、着陸時の重量 210 kg)の片面に取り付けた太陽電池パネルが太陽方向に向いていないために発電ができず、稼働できる時間がバッテリーによる数時間にとどまってしまったためでした。

「SLIM」という名称からわかるように月への到達に必要な燃料を少なくするために徹底的に軽量化を図り、搭載燃料を抑えた省資源化によって持続可能(サステイナブル)な宇宙開発を実現しようという狙いがありました。月面への着陸の手順は、(1)ホバリングから、(2)姿勢前傾に移行して、(3)主脚接地と続き、(4)前補助脚接地なり、最後に(5)姿勢静定――となっていて、順調にいけば太陽電池パネルを接地した面が上となって太陽光を受けるはずでした。

SLIMの月面への着陸する際の手順。(1)ホバリングから(2)姿勢前傾に移行し、(3)主脚設置、(4)前補助脚設置、(5)姿勢静定――といく計画でした。
(提供:JAXA)

ところが、この2段階方式の着陸手順があだとなり最終的な姿勢が計画通りとならず、太陽電池パネルが太陽方向を向いていない状態となっているとみられています。

2024年1月25日追記 → 14:00から記者会見して着陸姿勢がどうなっているか説明が行われました。

月面では太陽は一カ月かけて一回りするので2 週間もすれば太陽の位置はSLIMの反対側に回ることになるので、うまくすれば発電が再開するかもしれませんが、当初の計画通りにならなかった点が「合格点ギリギリ」という自己評価となったようです。

とはいえ研究開発はこうしかことの積み重ねであることは言うまでもありません。省エネで月面を目指した2段階方式をさらに精度を高めるために、主脚接地の際の速度が計画通りだったのか否か、速度の見積もりが甘くて主脚接地から前補助脚接地とつながらなかったのか、あるいは姿勢静定がうまくいかなかなかったのか……等、原因を究明して、次につなげられるよう知見を得ることが重要です。

2段階方式そのものが誤りであったという結論に至るかもしれませんが、今後、本格化する月探査を実施する際には定期な物資輸送が求められますので、必要なチャレンジでした。急いで月に到着することがあるのはもちろん、搬送を急ぐ必要のない物資は時間をかけて一定期間をおいて定期的に送り続けるということになリます。

そうした時代に向けて、SLIMのような低コスト、省資源による輸送手段に象徴されるサステイナブルな宇宙開発が求められるのは間違いありません。